酒と社会現象

お酒を飲んで体調が悪くなる、または悪そうな様子を「グロッキー」と言うことがあります。
実はこの言葉、とあるカクテルが語源とされているのをご存知でしょうか。
そのカクテルの名は「グロッグ」。
1700年代にイギリス海軍の提督のあだ名から、そう呼ばれるようになりました。

大航海時代、長期間の船旅では、食品の管理や鮮度の維持が難しく、船員には腐りやすい水の代わりに酒が配給されていました。
しかし、配給された酒を数日間ためて楽しむ悪癖のある船員に、それをやめさせようと配給していたラム酒に水を混ぜて飲ませるようになったことがこのカクテルの元だと言われています。
後にレモンジュースと砂糖を加えたレシピに改変されるこのラム酒の水割りは、当時の船員には大変不評で、これを提案した提督エドワード・バーノンのあだ名「Old Grog」から、グロッグと呼ばれるようになったそうです。

さて、そんな不評から広がっていったグロッグですが、少しあとの時代にとある病気への対策として、飲んでいた人々もいました。
それが、壊血病の予防です。この時代、海賊や船乗りが常に悩まされた壊血病は、ビタミンCの欠乏により、歯茎から血が出て関節が痛み、最後に死至る恐ろしい病気でしたが、原因不明の不治の病として扱われていました。
たまたま、柑橘類を乗せた船の乗員が壊血病にかからずに航海を終えた事実から、英海軍が船員の食事にレモンジュースと砂糖を導入したことで、いまのグロッグのレシピとなりました。
(医療的にビタミンCの欠乏が原因だとわかるのは、もう少しあとの時代です。)

カクテルの歴史にとって、必ずと言っていいほど重要な出来事の1つにアメリカの禁酒法があります。
グロッグ誕生よりだいぶ後の1920年〜1933年代まで施行されていたこの法律は、酒類の製造、販売、輸送を禁止する法律でした。

アルコールによる不慮の事故や中毒者のトラブル、家庭での暴力や若い人々の犯罪を危惧し、未然に防ぐため、飲酒を反対する協会団体や女性会などが国に働きかけたことを発端としています。
しかし、この法律には多くの抜け穴があり、なによりもアルコールの製造、販売、輸送を禁ずるだけで、個人が酒を飲むことに対してはなんの法律的強制力もなかったのです。

この法律施行後、消えてしまったカクテルのレシピは多くあるようです。
カクテルの黄金時代と呼ばれていた法律施行前の洗礼された味を再現できるバーテンダーが、アメリカ以外の国へ散り散りになってしまったことが、原因の1つと言われています。
モグリのバーでは粗悪な蒸留酒が出るため、そういった酒を子供に飲ませたくない母親や、自宅で酒を飲みたい人々は「医療用」と称してウイスキーを医者に処方してもらうこともありました。

さて、社会現象とアルコールは好きな人にとってはかなり密接な関係にあると言えるでしょう。
気になってくるのはお財布事情。
つまりは税金です。
現在日本で酒と同じく20歳から解禁されるものとしてタバコがありますが、その税率は61.7%となっており、半分以上が税金です。
アルコール類は種類別の差はありますが、代表的なビールは約36.4%(消費税抜き)となっています。2026年には税率の改変もあるようなので、気になった方はぜひ調べてみてください。

今現在私達が持っているもの、使っているものと同じように、酒も長い長い歴史の中でその役割や目的を変えながら多くの人々に親しまれてきました。
グロッグの様に、時代背景にあわせて変化し、多面方向から役に立つもの、アメリカのように社会問題になってしまうもの、結局は飲んだその人次第ではあるのですが、人々を惑わせるアルコールには不屈の魅力があります。

私達料理人にとっては、美味しい食事と美味しいお酒は切っても切れない存在であり、料理を引き立たせる名脇役です。
これからも、心から楽しいお酒を呑める世の中であってほしいと、そう思います。

出典

アメリカの禁酒法はなぜ制定された?その結末とは…

https://blog.sapporobeer.jp/knowledge/11449/embed/#?secret=JTow6mWxKy

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%B0
https://www.bank-daiwa.co.jp/column/articles/2020/2020_258.html

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