美術作品は好きですか?
元は文化や行動を伝える壁画として始まった「美術」は、時が経つにつれて裕福の象徴になったり、信仰の可視化として描かれたり、意味のないものとして大金がかけられたりしてきました。
今でこそ、私達が気軽に美術館に行って作品を見ることができる世になりましたが、料理人である私達も、一種の「美術家」であることを考えたことはありますか?
先日、デザインの参考画像をインターネットで探していると、サジェストに「キュリナリーアート」という言葉が出てきました。
直訳は「料理を準備するような食料の習慣、方法、あるいは準備」または「割烹」です。
「アート」と名がつく言葉なので、てっきり現代調理の魅せ方の一種だと思ってしまいますが、私達料理人が普段行っている仕事と同義の言葉なのです。
今、あなたの前に1皿の料理が出てきたとします。
最初の感想はまず、「美味しそう」。
そして、カトラリーを持ちます。
そして、貴方はこれから見て、香りを嗅いで、それを一口大に崩して、口に入れて料理を味わい、理解しようとします。
皿はなぜその大きさなのか。
なぜその色なのか。
なぜその質感のものなのか。
食材はなぜそれなのか。
生、茹でてある、焼いてある、蒸してある…なぜその調理法なのか。
そしてなぜその大きさなのか。
付け合せはなぜそれなのか。
なぜその位置においてあるのか。
温かいのか冷たいのか。
液体なのか、ゲル状なのか、固形なのか…。
そして、この皿を作った料理人は、どのようにこの料理を楽しんでほしいのか。
私達は食べる側でもあり、作る側でもありますので、どちらの気持ちもよくわかります。
1皿に詰め込んだ、無くなってしまう美術作品。
きっと、これを「キュリナリーアート」と呼ぶのでしょう。
私は年に数回ではありますが、美術館に行く機会があります。人が作ったものをじっくりじっくり筆の形1つ1つまで見ていると、その熱量に当てられて情報過多になります。
すべてを頭の中に入れることは残念ながらできないので、大抵1度館内を回ったあと、休憩所で数分休んでから、もう一巡します。
1700年〜1900年代の絵画作品が好きなのですが、その時代は、カメラの登場により、写実主義と呼ばれた絵画たちが端に追いやられ、高貴な宗教美術や肖像画から抜け出そうと型破りな技法、モチーフが使われたまさに美術における1つの転換期でもあるように思います。
料理の転換期の1つに、今から約80年前、「ヌーヴェル・キュイジーヌ」というフランス料理のスタイルがあります。
この言葉は直訳で「新しい料理」を意味し、フランスの料理評論家、アンリ・ゴーとクリスチャン・ミヨーが書いた「ゴー・ミヨ」の中で造語として使われ、一般的に広く知られるようになりました。
フランス料理の世界では、それ以前の料理を古典料理と称し、料理人はすでに確立された作品を模して再現するような、職人業であり、洗礼された料理を何度も繰り返す人々の事だったといいます。
「ヌーヴェル・キュイジーヌ」では、シェフは一人の表現者として扱われ、上記の「キュリナリーアート」の製作者という立場になります。すべての人に、その料理を食べる理由があるように、すべての料理人にその料理を作る情熱を、再現の自由を、常識の壁を壊す機会が与えられるようになりました。
現在はフランス、日本に限らず、世界中に「新しい料理」とその1皿のストーリーを発信する店がどんどん増えています。
是非、1つの作品を楽しむように、料理1皿を食べてみてはいかがでしょうか。
出典
https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/food_and_art
https://otory.jp/blogs/%E6%96%99%E7%90%86%E7%94%A8%E8%AA%9E/%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%81-%E3%83%8C%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%82%A4%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%83%8C