佐賀県が持つ”食の力”
Team nocsは、代表・小川の招集の下、福井のレストラン・LULLのメンバーと共に佐賀県の唐津へ。
現地まで向かう博多空港から唐津まで向かう電車では、
唐津湾沿いの美しい海浜に田園風景、風光明媚な山々に、虹の松原。
その前後には日本家屋と新築の家々が混在する穏やかな土地で、
豊かな景色の中に住まう人たちの息遣いを感じさせられる。
佐賀県といえば唐津焼、有田焼、伊万里焼といった世界に誇る陶磁器が有名であったり、
ブランド和牛の佐賀牛、呼子のイカ、佐賀海苔などの”うまかもん”もあり、
日本の食文化を語る上で、佐賀は切っても切り離すことができない関係だ。
今回向かった唐津は佐賀県の北西の海沿いに位置し、対馬海流が流れる世界有数の漁場、玄界灘に面する都市。
佐賀市に次ぐ、佐賀県で2番手の都市部である唐津市は名産品も要する”食材の宝庫”でもある。
そんな唐津へ向かったのは、nocsで行っている『地方創生活動』の一環として。
「舞鶴荘」という重厚な作りの日本建築は国の重要文化財にも指定されている近代和風建築であり、大正時代に建築された旧高取家住宅の一つ。
1962年以降は九州電力が所有をしていて、接待用の寮であったり、社員の宿泊施設として活用されていた。
そんな舞鶴荘は2014年に本館は閉ざされ、建物内の立ち入りは禁止されている。
重要文化財でもあるこの場所を「なんとか活用したい」と言う想いから、現在は庭園エリアではスペースの貸し出しやマルシェを開催するなど、様々な活用方法に力を入れている。
その声は、地方創生事業を手がける小川シェフの元に届き、次なるプロジェクトを進行している。
プロジェクトの先駆けとして、team.nocsとLULLの面々は、
今回この「舞鶴荘」にて、唐津の食材を活かしたフルコースを提供する。
この記事でこの唐津の食材と、土地にピックアップして紹介させていただく。
●佐賀の食材たち
唐津は海岸沿いには唐津湾。
玄界灘の一部の海域として、良質な魚介たちが黒潮と共に流れ着く。
内地の山に囲まれた土地では清水の水流が流れ、その水源から育てられる米や二条大麦などの穀物に、日本酒、自然薯など唐津固有のものも。
そして、この山と海の間、玄界灘を臨む玄海地区ではブランド牛の佐賀牛も育てられている。
このように、佐賀県。さらには唐津だけでも農業、漁業、畜産業がどれも盛んで食材の宝庫だと言うのが伝わってくるだろう。
さらには料理を提供する器として欠かせない「唐津焼」
「唐 (中国大陸や稜線) へ渡る津 (港) 」という意味から名付けられた「唐津」の名の通り、中国大陸、朝鮮半島との交流によって伝わった技術も多く、九州でいち早く焼き物産地として発達した背景がある。
そんな、「唐津」の土地にはどんな食の”風土”があるのでしょうか。
○唐津湾から漁れる魚介たち
唐津で真っ先に挙げられる食材といえば、玄界灘から取れる新鮮な魚介たちではないだろうか。
呼子のイカに佐賀海苔、アジなど、漁れる魚種も様々。
対馬海流から流れる黒潮育ちのイカは、コリコリとした食感とねっとりとした甘みが素晴らしい品質。
日本の海苔生産の約4割を占める有明海は栄養分が豊富で、ここで育つ海苔は口溶けが良く、香ばしさもあり、とろけるような甘みを持つ。
中でも、この唐津港には「神経締めの天才」と呼ばれる「大山鮮魚店」の大山さんがいる。
「神経締め」は魚の頭に穴をあけ背骨に沿ってワイヤーを差し込み、中枢神経を壊して死後硬直を遅らせることで鮮度を保つ処理方法。ただでさえ、栄養分豊富で品質の良いこの魚たちはこの手法により、都内の星付きレストランや、海外市場にも展開をするほどの品質だ。
○唐津産のフルーツたち
フルーツはハウス栽培でみかんや不知火などの柑橘類やいちごなど、様々な果実たちが育てられ全国に流通している。
今回のイベントで使用したのはキウイに清美オレンジ、そして「井出農園」の白いちご。
実際にハウスに伺った「井出農園」ではハウス内も見学させてもらった。
白いちごは栽培がとても難しいと言われており、少しの環境の違いで特徴の美しい純白が赤く色づいてしまったり、栽培温度から、光の当たり方、収穫のタイミングなどまで緻密な栽培を行なっている。
そんな白いちごの「天使の実」は、いちごらしい香りを保ちつつ、パイナップルのような爽やかさを持ち、
味わいにもメロンのような風味があり繊維質でしっかりとした身質が特徴。
驚くことに、平均重量は60g、大きいものでは100gほどのものまである。
○穀物
佐賀では二条大麦が国内生産量が全国トップで、九州の麦焼酎の原料にも多く使われるほど。
米の名産地でもあり、八幡岳の中腹に広がる唐津市蕨野地区の棚田は国の重要文化的景観にも選定されている。
今回、魚料理にもこの棚田米が登場している。
荻野地区には民家がなく、生活排水も流れない。この八幡山の清水が流れ、日当たりも良い。
棚田米はこういった良質な水や、日照から生まれる昼夜の寒暖差から甘味の元、デンプンが生み出される。
この土地で育った米は、甘味と粘りが強く、ふっくらとした柔らかめの米が特徴となる。
○佐賀牛
佐賀牛は和牛の中でも特にブランド力が強い。
厳しい基準をクリアした物だけが名乗れる高級和牛。
サシはコクはあるが、くどくないさらりとした上質な甘み。
牛が育つ環境も、良質な水と、上記で紹介した棚田米の稲藁などを飼料にすることからこのような味わいが生まれると言う。
○野菜
野菜ももちろん様々。
自然薯やモロヘイヤ、プチヴェール、うまかねぎ、たまねぎ、アスパラガス、ナス、トマトなど。
唐津の自然薯は、昔、藩主への年貢として収められる逸品で、30年前までは自然薯掘りが唐津の人々の日常だったとされるほど。
自然薯はささき農園さんのものを今回のメニューで使用しており、自然薯本来の味わいを表現するために土づくりから始めたと言う。
山の落葉と川の刈り草を集め、堆肥にし、そこに納豆やヨーグルト、米ぬかなど、生きた堆肥を作り上げ、化学農薬を撒かずにこの農園自作の堆肥で栽培をするのだと言う。
この自然薯はアクやえぐみがなく、風味が強くて粘り気も強い。
ネギは特に「うまかねぎ」というブランド銘柄が売り。
小ネギの中でも香りが良く風味も強い。特筆すべきはシャキッとした繊維で、刻んでも輪が潰れず、日持ちもする。
トマトは佐賀市のとまと屋ファーム江島さんが作るブランドトマト「ひばりトマト」を使用。
有明海の干拓地であるミネラル豊富な佐賀平野では味の濃い、甘み、酸味、旨みを強く持った力強いトマトが栽培することができるのだと言う。
○唐津焼
唐津焼は、佐賀県唐津市を中心に作られている陶器で、国の伝統的工芸品に指定されている。
ざっくりとした粗い土を使った素朴な風合いと多彩な装飾技法が特徴で、強い主張を持たないことから、お茶や料理、花などを引き立てるうつわとしても人気がある。
制作は分業ではなく、生地作りから成形、絵付け、窯焼き等、全ての工程を作家自ら一貫して行うことが多いとのこと。
唐津焼は土の特徴が作品に現れるため、原料を近隣の山から採取することからはじめる。
現在では、街をあげて唐津焼の魅力を発信する取り組みもはじまり、窯元の数も70ほどに増えているそうで、窯元をめぐる「窯元ツーリズム」などと言った企画で産地を盛り上げる動きが活発になっている。
唐津駅からほど近い呉服町商店街の道中にある、「美術陶磁器の店 一番舘」では、
肥前の三右衛門と呼ばれる唐津焼、有田焼の窯元を始め若手作家の作品まで、販売から個展の企画などに渡り、伝統の継承と発展の架け橋となっている。
昨年より唐津観光協会の会長をも勤めている一番舘の代表・坂本さんはこの器を使った料理人とのコラボレーションにも力を注ぐなど、人と人が結ぶ縁をとても大切にされていた。
今回のイベントで使用する村山健太郎さんの器も、この坂本さんからのアテンドだ。
料理と器の相性も、ぜひ楽しんでいただきたい。
記事:園部圭祐